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一橋大学大学院社会学研究科 院試対策  (主に特別選抜)

一橋大学社会学研究科総合社会科学専攻社会動態研究分野への進学を検討している人(特に一橋の学部生ではない人)への記事です。

 

※この記事の執筆者は一橋の学部出身ではなく、合格から入学までの間に予定していた指導教員からハラスメントを受け、他大学の研究科を受け直して、そちらに進学しています。ハラスメントへの対応が良くなかったので、少し悪意が見える記事になっているかもしれません。すみません!

 

社会学研究科には哲学や歴史学政治学などを学ぶコースもあるため、社会学というよりはむしろ人文・社会科学研究科という名称の方がふさわしいという意見もありますが、社会学と地理学・歴史学を区別することは難しく、また哲学や現代思想、人類学などからの影響を無視することはできません。

 

さて、一橋大学社会学研究科には3種類の入学試験があり、それぞれ特別選抜・一般募集(秋季)・一般募集(春季)です。私は特別選抜で合格したので、この記事はそれを中心に話していきます。

 

特別選抜について

 

・2017年度から実施されている。私が合格した2018年度は、5月末に結果がわかるという、他大学より早い時期に試験が行われた。2019年度は秋に実施。

・出願要件がGPA3.00以上であり、専門科目で2つ以上S, A+, Aにあたる成績をとっている必要がある。

・外国語の民間試験の成績を提出する必要がある(何点以上かは問われない。TOEICでも可)。

・ペーパーテスト(専門科目)がない。

 

特別選抜は、一次試験は提出する書類によって審査がなされ、二次試験は面接で合否が決まります。ペーパーテストがないことは、大学院で志望する分野を変えるという学生にとってはチャンスになります。しかし、その分だけ評価基準の数が少なくなるのでそれに合わせた対策が必要になります。

 

特別選抜では何が評価されるのか

 

・志望度

 

試験に際して提出する必要がある書類を見てみましょう。

1. 将来の希望(400字)

2. これまでの勉学について(1200字):卒業論文の内容

3. 修士課程での研究について(1200字):修士論文の構想

 

大学院への進学を考える人は、長い文章の読み書きに慣れていることが多いかと思いますが、そういう人にとっては、この字数は短く、「自分の考えていることが伝わるのかな…」と不安になるかもしれません。実際、私の肌感覚でも、この字数では研究の概要、新規性、これまで自分が何を学んできて、どういう意識を持っているかということがわかるとは考えにくいです。

 

そのため、この特別選抜への出願を検討している人は、研究室訪問をできるだけ早く行い、自分の名前と研究内容を覚えてもらうとより良いです。だいたい、毎年5月末に大学院入試説明会があるので、できれば学部3年次に出席し、進学を検討していることを伝えましょう。そのなかで、「ゼミの見学をすることは可能でしょうか」と伝えるとなお良いです(これを正当な理由なく断る教授のゼミを選ぶことはやめておいた方が望ましいです)。大学院のゼミはさまざまであり、20人くらいのゼミもあれば、数人で開講しているゼミもあります。また、出席者も修士課程から博士課程まで、あるいは教鞭を他大学で執っている先生が聴講している場合もあります。自分にゼミの雰囲気が合っているかを確認しましょう。もちろん、大学院入試説明会の時でなくても、自分自身で気になっているゼミの教授にメールを送って差し支えありません。研究室訪問のあとは、お礼メールを送ることも忘れないようにしましょう。

 

事前にある程度勉強していれば、研究室訪問で有利に立ち回ることができます。自分の研究内容に関連していて、かつ自分が最近読んだ本(であれば内容を覚えていると思うので)の内容を熱っぽく語り、「社会学的な視点」に共感していることを伝えましょう。しかし、その本に盲目的に共感しているのではなく、それを踏まえたうえで、少し異なる見解もありえるという旨を話すと良いです。すると、教授にとっては、「しっかり勉強もしたうえで、自分の研究内容も持っている(つまり、修士論文を書くことができる)学生」に映るような気がします(もちろん、そんな単純ではないでしょうが)。

 

これをこなしておくと、一次試験の突破率が上がると思います。さて、それでは書類の各項目ですが、「将来の希望」については、間違いなく、博士課程への進学を希望することを書いておいた方が良いです。未定でも良いですが、その場合は、博士課程へ進学したいのはやまやまだが、人文・社会科学が現在置かれている立場や経済的な問題について考えると安易に博士課程への進学を考えることはできないということや、学振DC1(修士2年次に応募することができる奨学金で、博士1年次から3年間一定額を受給することができる)を申請すること(実際には就職するつもりであっても構いません)を書くと良いかもしれません。業界についての知識・理解があるということがプラスに働く気がします。

 

次に、「これまでの勉学について」と「修士課程での研究について」ですが、これはそれぞれ卒業論文の内容と修士論文で取り組みたいことを書く欄になります。学部4年の、まだ卒論執筆に入っていない人も多い段階で修士論文の構想を書くことは難しいかもしれませんが、その場合は、卒業論文で時間的な制約上、取り組むことができないため課題として残されていることを修士課程で研究したい、あるいは卒業論文ではあるテーマについてアンケート調査と分析を行ったが、より深く知りたいので修士課程ではインタビューなど質的調査に取り組みたい、など方法論上での差異を出すと良いです(もちろん、量的調査より質的調査の方が深いと述べているわけではありません)。

 

どちらにも共通する書き方のフォーマットとしては、

1. その研究で何を明らかにする/したいのか

2. その研究をするにあたって用いる先行研究の論点

3. その先行研究の問題点(ここが自分の研究の独自性になります)

4. その問題点を改善するための調査方法

5. その調査によって明らかになった/明らかになると考えられること

という順番で書いていくと良いと思います。

 

最後に主な参考文献を書く必要があります(これを字数に入れる必要はありません)。参考文献を書く際は社会学評論スタイルガイドを参考にしましょう。社会学界のなかで、もっともオーソドックスな参考文献の書き方です。ただ、これでなくても、特定の学術誌の参考文献の書き方に準じている場合は問題ありません。もっとも危険なのは、参考文献の書き方がバラバラなことです。これがバラバラだと、一気に見栄えが悪くなります。

 

また、社会学評論スタイルガイドには書いていませんが、参考文献の並べ方は著者名のローマ字アルファベット順です。

 

de Certeau, Michel, 1980,…

Durkheim, Emile, 1897,…

大澤真幸, 2010,…

盛山和夫, 2013,…

Weber, Max, 1905,…

 

こういう順番に書きます。間違えやすいですが、「盛山」はせいやまと読みます。また、ミドルネームは先頭にきます。オランダ人に多いvonというミドルネームも、先頭になるのでvの位置に書きます。

 

面接では何が聞かれるのか

 

・卒論、修論のテーマ

・ほかのテーマにも興味があるか

・研究の社会的意義

・英語をその場で和訳する

 

面接では、まずオーソドックスに、卒業論文で取り組んでいるテーマと、修士論文で取り組みたいテーマを聞かれます(これは書類に書いた通りに答えれば良いです)。次に、ほかに興味があるテーマはあるか、ということも聞かれることがあります。この質問の意図は、「いまのテーマに興味がなくなった時にほかのテーマで論文を書くことができるか」というものなので、「どうしてもこのテーマを研究したいです」と頑なな答えをするよりは、「あれにもこれにも興味があって…」という答え方をした方が良いです(もちろん、ほかの解釈があるかもしれません)。また、研究の社会的意義も問われることがあります。特に思いつかない場合は、たとえば、「自身がテーマとする集団の語られ方に偏りがあり、ある属性を持っている人びとが一枚岩であるかのように語られているが、実際はそのなかには多様な価値観があり、それを無きもののように振る舞うのは正確ではなく、この問題提起を行わなければその集団全体をエンパワーすることはできない」といった答え方が適切だと思います。「研究に社会的意義が必要なのか」と問い返すと、少し厳しくなると思います。

 

その他、少なくとも特別選抜では、英語の短い文章(7行くらい)が印刷された紙が渡されて、少し時間を置いた後、和訳して読み上げるように言われます。単語も難しくなく、構文もシンプルです。ペンを使えるので、不安な方は時間を利用して、読み上げる時に間違えないようにSVをとったり、怪しい単語の意味を書いておけば安心です。これは難しいものではありませんが、ここで躓いてもそこまで合否に影響することはありません。「できてなかった」と言い、かつ、教授にも「できていなかったね」と言われた学生が合格していたので(ただし、希望する指導教員によると思います。出願書類で書いた、希望する指導教員の主・副2人が面接官になります)。結局は、人が見るので、その学生のことを教授がどう思っているか、がもっとも合否を左右することになると思います。積極的にアプローチをとることがもっとも大事だと思います。

 

特別選抜の難易度

 

・穴場です

 

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一橋大学社会学研究科・社会学部, 2018, 大学院入試状況, (2018年8月10日取得, 

http://www.soc.hit-u.ac.jp/admission/gs/result.html).

 

この表を見てわかる通り、倍率が低いです。2017年度入学は出願者全員が合格しており、2018年度入学は出願者14人中9人が合格しています。また、一次試験合格者11人のうち9人が合格したとありますが、そのうち1人は辞退しているので、実際の数字は10人中9人が合格です。一次試験を通ると、ほとんど受かります。そして、その一次試験の合否を決めるとされているのは、短い字数の書類と、何を受講したかや大学のレベルによって大きく変わるGPAと、外国語の民間試験(TOEICなど)の成績です。肌感覚では、TOEICは800あれば十分という感じです。修士課程を修了したのちに就職をするという学生の場合は、大学院在学中に英語論文や洋書を読んでいる人はそう多くはありません(もちろん、読んだ方がより良いとは思います)。そのため、そこまで英語力は問われていないという印象があります(TOEICで受験することができる研究科のすべてについて言える事だと思います)。もし自身の外国語の民間試験のスコアに不安があるようでしたら、研究室訪問の際に「大学院に入ると英語論文を読む必要があると思うのですが、私は英語力に自信がありません。私のTOEICのスコアは○○点で…」などと聞いてみましょう。その時に、「それだけあれば十分だよ」という反応があれば問題ないということです(もちろん、TOEICでのハイスコアに必要な英語力と英語の論文を読む際に必要な英語力は同じではありませんが)。

 

筆記試験の対策

 

・出題者を見極めよう

 

上記の特別選抜では必要ではありませんが、一般選考(秋季)では筆記試験の対策が必要になります。ちなみに一般選考(春季)では卒業論文に重きが置かれます。筆記試験は、自身が希望する分野の問題を1題、ほかの問題を1題の計2題に答えます。問題は論述式で、手書きなので、解答を書き始めるまでにどのような構成で書くのか、という点を頭の中で(あるいは問題用紙の隅に)整理しておきましょう。

 

筆記試験の問題は、大学ホームページに公開されています。

出題は、この研究科内のそれぞれの分野を専門とする教授が行なっていると推察できるので、その教授が授業でどのような研究を紹介しているか、ということを学部の学生などに聞いてみたり(多くの学生がSNSをしているはずなので)、その教授が書いた入門書などがあれば図書館で借りてみると的が当たりやすいと思います。もちろん、ある程度自分で勉強していれば、このようなことをしなくても、一次試験の突破は可能だと思います。ただ、ここで不合格になっても、東京大学大学院に合格した学生もいます。どれだけ勉強したかの問題だけではなく、その時のコンディションや、出題された問題がたまたま自分がカバーしていなかったということもあるので、気を落とさないようにしましょう。

 

筆記試験の解き方

 

(この記事を書いている私自身が、解答に自信がないので暇な人以外は飛ばしていいです)

 

試しに、問1-(1)を解いてみましょう。

社会の「個人化」とは何か。その構造的背景・過程・社会的影響を述べた上で、社会学理論にと っての意義と課題を論じなさい。

 

まず「個人化」という単語から、ジークムント・バウマンの著書『個人化社会』の存在を思い起こすと良いでしょう。実際に著書を読んでいなくても構いません。「『個人化』はポーランド社会学者・バウマンなどによって取り上げられてきたテーマである」と始めます(ここで括弧と鉤括弧を分けているのは、括弧内の単語を括るときは鉤括弧を用いるというローカルルールがあるからであり、文中でわかりやすくするために括弧を用いているだけなので、実際に解答する際は鉤括弧を普通の括弧に戻せば良いです)。出題者はおそらく、作問の際に特定の著名な社会学者のことを想起し、そこから問題を作っているので、その意図に沿うことが重要だと思います。そして、「『個人化』とは、社会の紐帯がゆるくなり、個々人が独自の価値観のもとでそれぞれの生活様式を持つようになった状態を指す」などと定義します。社会学にはデュルケームの流れを汲むもの、ウェーバーの流れを汲むものなどさまざまな考え方がありますが、基本的には「社会」(集団)が「個人」に影響を与えるという考え方をしています。そのため、解答のなかでことばを定義する際、影響を与える側である社会のはたらき(ここでは「社会の紐帯がゆるくなり」)と、影響を受ける側である個人のはたらき(ここでは「個々人が〜生活様式を持つ」)に分けて解答すると良いと思います。

 

問題にある「構造的背景」(構造)は、影響を与える側である社会と同じ意味と解釈して差し支えありません。この構造・社会のあり方は、階級的な(経済的な)ものを指すこともあれば、結婚における規則を指すこともあります。強いて言うならば、「暗黙なルール」でしょうか。この構造・社会のあり方が、個人の価値観や行動に影響を及ぼす(その結果、「社会問題」が生まれている)という考え方を「構造主義」と呼びます。しかし、社会がそのまま個人に影響を与えるというモデルを採用することは、現在ではそう多くはありません。

 

まず、「社会」にはさまざまな側面があること(政治、経済、文化など…)が指摘され、次に「社会」と「個人」の関係は双方向的であるということが指摘されます。たとえば、今回の問題である「個人化」について言えば、「インターネットの普及により、人びとが対面することなく、異なる文化を持つ人びととコミュニケーションを行うことができるようになり、これまでの家庭や近隣集団内でのコミュニケーションが希薄になった」という文化的な面での社会構造のあり方もあれば、「仕事の分業が進み、既存の人間関係に基づいた仕事の分配より、各個人が高等教育や課外活動を通して身につけた『能力』が評価されるようになった」という経済的な面での社会構造のあり方もあるでしょう。このなかのひとつの面のみを書くよりは、複数を書き、問題文にある「過程」として、一方が他方に影響を与えているというように書くといいでしょう。たとえば、この場合であれば「インターネットの普及が、採用における能力によるマッチングをより促進している」などと書くことで、「社会の文化的側面→社会の経済的側面→個人」という流れを表すことができます(分業の話はちょっと無理があったかもしれませんが、ほかに思いつきませんでした。すみません)。

 

「社会」と「個人」の関係が双方向的であることについては、問題文中の「社会学理論にとっての意義と課題」を言及する際に抑えればいいかと思います。まず、現代社会は「インターネットの普及」と「能力による分業」によって、「個人化」していると前段落までに則って書いたあとに、「個人化社会」における問題点を論じます。たとえば、これまでの家庭・近隣集団などが持っていたつながりと、そのつながりのなかにある暗黙的な文化が価値を失うことによって、「自分が持っている価値観が正しいものなのかわからなくなる=無規範状態(アノミー)」に陥ってしまうことなどが挙げられるでしょう(アノミーデュルケームの用語で、近代化に伴って起きる状態のことを指しますが、個人化社会≒現代≒ポストモダンも近代化の延長線上にある、などという留保ができればいいと思います)。それから、社会学理論にとっての課題として、「社会」と「個人」の双方向的な関係が論じられていないことに言及します。「『個人化』とは、社会の紐帯がゆるくなり、個々人が独自の価値観のもとでそれぞれの生活様式を持つようになった状態を指す」という議論では、「個人」がそれぞれまったく別々の生活様式を持って実際に生活しているかのようです。しかし、実際には、それに対するバックラッシュとしての、伝統的な価値観の先鋭化も起こっています。この動きは、「社会→個人」を受けたうえでの「個人→社会」の動きです。「人びとは、アノミーに陥って、それぞれが自身の価値観に不安を覚えるようになり、これまでの価値観により激しくすがり付くようになっり、ラディカルな思想のもとで差別を行う集団が台頭するようになった」などと書くと良いと思います(我ながら、ものすごく雑な議論で申し訳ないです)。社会学理論にとっての意義については、「インターネットの普及」について改めて言及し、「技術」という要因を入れたことを評価したうえで、近年流行している科学技術と社会の関係についての議論を引用すると良いかもしれません(技術決定論自体は結構批判されているので、必ずしも評価されるべき要因かどうかは微妙ですね…)。私自身の最近の不勉強のせいで、まともな解答ができなかった手応えがある(むしろモチベーションを上げたくて書きました)ので、参考になるかどうかは微妙なのですが(分業の話はする必要がないのに、社会における複数の側面というのを言及したいばかりに入れてしまいました)、太字にしているところは汎用性があると思います…。

 

おわりです